私は20時に寝る。
20時になると、娘と一緒に布団に入り、部屋の電気を消す。
その日も夕食を終え、お風呂も歯磨きも済ませて寝室に入る。
真夏の空にはまだ夕方の明るさが残っている。
照明をつけると、部屋にはもわっとした熱がこもっていて、エアコンをつけようと窓を閉めると、ガラスには日中の日差しの温もりが残っている。
エアコンのスイッチを入れ、そのままベッドに転がって、SNSをだらだら見始める。
もう、ベッドから起き上がる用事はない。
しばらくすると、ベッドがかすかに揺れ、廊下の向こうから床をどんどん踏む音が近づいてくる。
「ゴロゴロタイムー」
パジャマを着た娘が、そう叫びながら寝室へ走ってくる。
その勢いのまま、私のいるベッドに飛び込んでくる。
ここ最近、毎晩この調子だ。
娘は今日も、ゴロゴロタイムをやりたい、どうしてもやりたいと、言葉を変えながら話し続ける。
その間もしばらく画面から目を上げない。それでも娘は構わず、私とスマホの間に顔を割り込ませてくる。
私は、ひとりでゴロゴロしたい。
こうなると、娘の話が終わるのを待つより、始めてしまったほうが早い。
スマホを枕元に伏せ、沈み込んだ体をベッドからなんとか引きはがして娘を抱える。そしてそのままふたりでベッドの上を転がる。
すっかり力の抜けた私には、6歳の娘がスーパーでカートいっぱい入れて、いざお会計というところで特売の米袋を見つけた日の帰り道のように感じる。しかも充電しながら使うスマホのように熱い。
「う゛あ゛わわわーー」と声が出る。
それでも何度か転がると、娘はベッドにあったカクレモモジリの顔型クッションをつかみ、ニコニコしながら私に投げてくる。
飛んできた、こちらを向いてニヤニヤしているピンクの物体を受け止め、時計を見る。
経過時間5分。
娘は両手を広げ、真剣にこちらをまっすぐ見て待っている。
私はクッションを持ち直す。
右に投げるふりをして左へ。次は左に投げるふりをして右へ。
娘は一度も取れない。それでもすぐに落ちたクッションを拾い、私へ投げ返してくる。
私はまた、右に投げるふりをする。
すると娘は、伸ばしている前髪を手で横によけ、口をとがらせながら、ずっと前からそう決まっていたように言う。
「おかあさんは、わたしがとれるところにしかなげないでね」
私は目を細めて黙って娘の顔を見る。
一度取らせれば、これで終わるかもしれない。
息を吸って大きく振りかぶり、投げる瞬間だけスッと力を抜く。
クッションは娘の胸のあたりへ飛んでいく。
娘はそれを両腕で抱え、にんまりしている。
伏せてあったスマホを手に取り、スクロールを再開した。
「じゃあ次は、だるまさんがころんだね! はじめのいーっぽ!」
体がずずずずずとベッドにめり込んでいく。沈みきる前に、娘が私の腕をつかんで引っぱる。
20時まであと40分。
私はもう一度、起き上がる。
