使いかけのにんじんの行き先

「料理が好きなんですね」

料理の仕事をしていると、そう言われることが割とある。

私自身も、自分でそう言っていたことがある。
でも、なんとなくしっくりきていなかった。
「料理が好きです」と堂々と言うには、どこか気恥ずかしいような。

料理をしている時間は好き。
これは迷わず言える。

何品も続けて作っていると、いつの間にか没頭して、頭の中が静かになるあの感じが好き。

食材をそのときの雰囲気で組み合わせて、
どんどん形になっていくのも好き。

それなのに、「料理が好き」と言うと、やっぱり何かが少し違う。

料理代行のお仕事のときは、当日キッチンにある食材を見て、お客さまの希望を聞いてから作りはじめる。

メニューも、作りながら決めていく。

この前は、冷蔵庫に大容量パックのお肉がいくつかと、魚、野菜がいろいろ。

ひときわ立派なブロッコリーが一房あった。

全部使うには多いので、半分だけ使う。
残りは、とりあえず置いておく。

使いかけのにんじんもある。
これもまだ、そのまま。

手を動かしているうちに、ミニトマトが目に入った。

「あ、さっきのブロッコリー。」

ミニトマトと合わせて、お酢とハチミツでマリネにしてみる。

甘酸っぱいものが好きな娘さん、気に入ってくれるといいな。
とか思いながら。

別の炒めものは、なんだか色が寂しい。

「そうだ、あの使いかけのにんじんを使おう。」

薄く切って入れてみる。

うん、いい感じ。

余ったものを無理やり押し込んだ感じではなくて、
このために残っていたのか、と思うくらい。

こういうぴたりとハマったような瞬間に、妙にときめく。

ひとつ作っていると、また別の食材が目に入る。

こっちとこっちで、あれになるな。

それを切りながら、火にかけている鍋をちらっと見る。

そうこうしているうちに、
あれだけあった食材たちが、どんどん料理になっていく。

保存容器も、いつの間にか目の前に積み重なっている。

最後の一品を詰めて、もう一度、冷蔵庫を開ける。

あれだけあったお肉も魚も、
立派だったブロッコリーも、
中途半端に残っていたにんじんも、もうない。

冷蔵庫を閉めて、なんとなく機嫌よく帰る。

たぶん私は、料理のこういうところが好きなんだと思う。